アルミの化成処理は、耐食性の向上や塗装下地として用いられる表面処理技術です。アルマイトとは異なり、化学反応で皮膜を形成し、導電性を持たせられるのが特徴です。この記事では、アルミ化成処理の種類や目的、メリット・デメリットを詳しく解説します。
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アルミの化成処理は、アルミニウムの表面に化学的な反応を利用して、薄い保護皮膜を生成する技術のことを指します。具体的には、特定の化学薬品が含まれた「化成処理液」と呼ばれる溶液にアルミ製品を浸漬させることが一般的です。この過程でアルミの表面が溶液と反応し、金属塩や酸化物からなる安定した化成皮膜が形成される仕組みです。
この皮膜は、アルミニウム自体が持つ耐食性をさらに高めたり、後工程で行う塗装の密着性を向上させたりする重要な役割を担います。電気を使わずに処理できるため、アルマイト処理とは根本的に異なる表面処理方法として分類されます。
アルミの表面処理として広く知られる「アルマイト処理」は、電解処理とも呼ばれます。これは、アルミ製品を電解液中で陽極(+極)とし、電気を流すことで表面に厚く硬い酸化皮膜(酸化アルミニウム)を強制的に成長させる技術です。一方、アルミの化成処理は、電気エネルギーを用いず、化学薬品の力(化学反応)のみで皮膜を生成します。
この製造プロセスの違いにより、皮膜の性質も大きく異なります。アルマイト皮膜は非常に硬く、絶縁性(電気を通さない)を持ちますが、化成処理皮膜は比較的柔らかく、皮膜が非常に薄いため導電性(電気を通す)を持たせることが可能です。
アルミニウムは、空気中の酸素と触れると自然に薄い酸化皮膜を形成するため、もともと錆びにくい金属とされています。しかし、その自然皮膜は非常に薄く、塩分や水分、特定の化学物質にさらされる環境下では、腐食(白錆など)が発生することがあります。
こでアルミ化成処理を施すことにより、より緻密で安定した保護皮膜を表面に形成します。この化成皮膜がバリアとなり、腐食性物質がアルミ素地に直接触れるのを防ぎます。これにより、アルミ製品の耐久性が向上し、長期間にわたってその品質を維持できるようになるのです。
アルミニウムの表面は、そのままだと比較的滑らかで、塗料が付着しにくい性質を持っています。無理に塗装しても、使用中に塗膜が剥がれやすくなる問題がありました。アルミ化成処理は、この問題を解決するための「塗装下地処理」として極めて重要な役割を果たします。
化成処理によって形成される皮膜の表面には、目に見えないレベルの微細な凹凸が作られます。この凹凸に塗料が入り込むことで、物理的に強力な密着性(アンカー効果)が生まれるのです。結果として、塗装の耐久性が飛躍的に向上し、美しい外観を長く保つことが可能になります。
アルミ製品の表面処理において、導電性の確保は重要な目的の一つです。前述の通り、アルマイト処理を施すと、皮膜が電気を通さない絶縁体になってしまいます。しかし、電子機器の筐体や部品などでは、アース(接地)を取るためや、電磁波シールド効果を得るために、部品の表面が電気を通す必要(導電性)があるのです。
アルミ化成処理で形成される皮膜は非常に薄いため、電気抵抗が低く、導電性を維持できるという大きな特徴があります。この特性により、耐食性を向上させつつ、アルミ本来の導電性も活かしたいという場合に、化成処理が最適な選択肢となります。
クロメート処理は、六価クロム化合物を含む処理液を使用して化成皮膜を形成する、古くからある代表的な方法です。日本では「アロジン処理」という商品名で呼ばれることも多く、この名称の方が広く知られているかもしれません。この処理の最大の特徴は、比較的安価でありながら、非常に優れた耐食性と塗装密着性を得られる点にあります。処理液に浸漬するだけで短時間に強固な皮膜が形成されるため、多くのアルミ製品に採用されてきました。
しかし、皮膜に含まれる六価クロムが人体や環境へ有害であることから、近年ではRoHS指令などの国際的な環境規制により、その使用は厳しく制限されています。
クロメート処理が抱える環境負荷や法規制の課題を解決するために開発されたのが、ノンクロメート処理です。一般に、六価クロムを使用せず、三価クロムを含むクロム化合物の使用も抑えた、環境に配慮したアルミ化成処理技術の総称とされています。主な処理薬品としてはジルコニウム系やチタン系、有機酸系などが用いられる点が特徴です。
開発当初はクロメート処理に比べて性能が劣ると評価されることもありましたが、技術の進歩により、現在ではクロメート処理と同等、あるいはそれ以上の耐食性や塗装密着性を発揮する処理も増えてきました。RoHS指令などの環境規制への対応が求められるなか、アルミ化成処理の分野では、ノンクロメート処理への移行が主流になりつつあります。
アルミ化成処理の最大のメリットは、その経済性にあります。アルマイト処理のように大規模な電源設備を必要とせず、化学溶液への浸漬という比較的簡便なプロセスで処理が完了するため、コストを低く抑えることが可能です。また、生成される皮膜は通常1μm(マイクロメートル)以下と非常に薄いため、処理の前後で製品の寸法がほとんど変化しません。
このため、高い寸法精度が求められる精密部品にも安心して適用できます。さらに、液体に浸す方法であるため、どれほど複雑な形状の部品であっても、液が触れるすべての面に均一な皮膜を形成できる点も大きな強みと言えます。
一方で、アルミ化成処理のデメリットは、皮膜の物理的な強度にあります。生成される皮膜は非常に薄く、アルマイト皮膜のような硬さはありません。そのため、耐摩耗性(擦れや傷に対する強さ)は非常に低くなります。部品同士がこすれ合う摺動部や、物理的な衝撃が加わる可能性のある箇所への使用には適していません。
また、皮膜自体は無色透明か、ごく薄い色が付く程度であり、アルマイト処理のように鮮やかに染色することは不可能です。あくまでも機能性(耐食性、塗装下地、導電性)を付与するための処理であり、高い耐久性や装飾性を求める用途には向かないことを理解しておく必要があります。
アルミの表面処理を選ぶ際、化成処理とアルマイト処理のどちらを選ぶべきか迷うかもしれません。その使い分けにおける最大の判断基準は、「導電性」と「耐摩耗性」のどちらが必要か、という点です。もし製品にアース機能や電磁波シールド性が必要で、電気を通さなければならない場合は、導電性を維持できる化成処理が必須となります。
逆に、部品が擦れる箇所に使うなど、表面の硬さや耐摩耗性が求められる場合には、硬質皮膜を形成できるアルマイト処理を選択すべきです。化成処理では物理的な耐久性は期待できません。
最終的な使い分けは、製品に求められる総合的な要求仕様によって決まります。例えば、単に塗装の密着性を上げたいだけ、あるいは軽度の防錆ができれば良いという場合は、低コストかつ短時間で処理できる化成処理が非常に有効な選択肢となります。特に大量生産品においては、そのコストメリットは大きな魅力でしょう。
一方で、製品の外観を美しく着色したい(装飾性)、あるいは屋外使用などで高い耐食性や耐候性(耐久性)が必須となる場合は、コストが高くなったとしてもアルマイト処理を選ぶ必要があります。目的に合わせて最適な処理方法を選定することが肝心です。
アルミの化成処理は、化学反応を利用してアルミ表面に薄い皮膜を形成する技術です。アルマイト処理とは異なり、低コストで処理でき、皮膜に導電性を持たせられる点が大きな特徴です。主な目的は「耐食性の向上」「塗装密着性の確保」であり、特に塗装下地処理として広く採用されています。ただし、皮膜が薄く柔らかいため、耐摩耗性は期待できません。製品に求められる機能が導電性や塗装下地であれば化成処理を、硬さや耐摩耗性、装飾性であればアルマイト処理を、というように目的に応じて適切に使い分けることが重要です。
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※1 当サイトでは、一般社団法人日本アルミ協会の「圧延・押出部門(二次加工)」会員名簿に掲載されている32社を二次加工のアルミ加工会社と定義している。
(2024年4月18日調査時点)
参照元:https://www.aluminum.or.jp/about/memberlist/
※2 参照元:一般社団法人 軽金属学会 小山田記念賞(第58回・第59回) 参照元:https://www.jilm.or.jp/page-recognition0221
※3 2024年5月16日編集チーム調査時点。